元大手管理会社取締役_ブログ

マンション管理会社の見直しで、大手管理会社が我も我もと競ってプレゼン合戦を行い、し烈な価格競争を展開するのは、戸数が何百戸にもなる大規模マンションです。
一方小規模マンションは、大手管理会社に人気がありません。
小規模マンションでは管理会社の委託料に割ける予算が厳しいため、コンシェルジュは言うに及ばず、管理員すら配置できないほど売り上げも少額です。


小規模マンションであっても理事会、総会は大規模マンションと同様に開催されます。フロントの担当する物件の上限は、住戸の総数ではなく管理組合の数で限界を迎えるにもかかわらずです。
併せて近年フロントマンや清掃員、管理員の人材不足で採用にかける経費も雇用を確保するための人件費も大幅に上昇しています。


__都内のあるマンション管理会社の社長さんとお話しする機会がありました。
管理棟数は、未だ50棟程度、管理戸数も1500戸程度の小ぶりの管理会社ですが、賃貸管理、不動産仲介、リフォームなども手掛ける不動産業兼営のマンション管理会社です。


不採算の小規模マンションは、大手からすると解約もやむなしと、強い姿勢で委託料の値上げを求めるケースが増えているそうです。彼らはそのようなマンションがスラム化し、破たんすれば、いずれは区分所有関係を解消して更地になり、不動産デベロッパーとして再開発という商売ネタとなると期待しているのだとのこと。
大手管理会社の不採算の小規模マンションに対する受託切り捨ての実状は興味あるお話でした。


同社はこのような大手のマンション管理会社が見捨てる小規模の分譲マンションを全てリプレイスで受注しています。そしてその全てがご紹介や管理組合からの飛び込みのご相談だそうです。
特段の広告宣伝や営業活動をしなくても地域でしっかり評価されている会社です。
賃貸、仲介など不動産のあらゆるサービスをワンストップで提供するため管理受託自体の利益が低くてもやってゆけるのでしょう。


規約変更や一時負担金を伴う大規模修繕工事などが従前の大手管理会社の下では長年実現できなかったマンションで、同社は管理を引き受けると、新幹線代を自腹で負担し、総会の委任状を取って回るような行動に出たそうです。特別決議を取るために、ここまでされると、管理組合からの信頼も絶大です。
「修繕工事も管理会社以外に任せるなんて考えられない。」となるようです。
『工事業者を直接管理組合に紹介しても、「管理会社としていくらいくら経費を載せて管理会社が元請で受注してください。」と管理組合から言っていただいた。』といった経験談をお聞かせいただきました。

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__私は驚きを隠せませんでした。
今まで管理会社は儲け主義で、顧客を上手に裏切って利益を上げるものだとの固定観念を持っていたからです。


相見積もりの数をそろえ、最安値の業者に発注することが唯一正しい発注方法だと形にこだわるなら、この管理会社のような管理組合との関係は構築できないでしょうね。今までの付き合いの中で、この管理会社であれば誠意を持って対応していると顧客が信頼すれば、管理業務がどれだけ円滑に行えるでしょう。


例えば理事会で駐車場入り口にポールを立てミラーを設置することを決め、3社から相見積もりを取ることがルールとなっていれば、少なくとも3社が現場を見にマンションを訪れます。設置場所や仕様の説明にフロントも同席します。見積書がそろえば再度理事会で審議です。(そのうちの2社は当然受注できません。)
理事会がミラーの設置を決定して工事が終わるまで、管理会社も工事業者も理事会も、皆とんでもない労力と時間をかけていますね。


信頼できる管理会社であればどうでしょう。
理事長「管理会社だと、いくらのコストで設置できるかね?」
管理会社「概算で10万円くらいです。」
理事長「それじゃあ10万円以下の予算であれば君に任せるからすぐに設置してくれ。」
こんなやり取りで組合運営が進めば一つの理想ですね。


任せられた管理会社にとっても、責任重大です。
「任せると言われるからには恥ずかしくない価格でしっかりと工事をしないといけない。」
と思うのか、それとも
「それなら上限いっぱいの10万円で請求し、業者をたたいて最安値で工事をしよう。」
と思うのでしょうか。
理事長も前者と信じる管理会社だからこそ任せるのでしょうね。

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こちらの管理会社のように管理組合と良好な関係が構築できるには、条件がある様に思います。
■マンションが比較的小規模であること
■前管理会社のへの不信感に代わって、現管理会社が信頼されていること
■比較的狭い地域に限定して効率よく管理受注をしていること
■賃貸管理やリフォームまで幅広く行いワンストップで対応していること
これら様々な要因が重なった、例外的な事例かもしれません。


私の知る東京都板橋区の高島平のマンションでは、管理を受託している管理会社が、「当社は高島平地区にあるマンション以外は管理いたしません。」と豪語していると聞きました。
この会社も先の会社と同じく賃貸管理、売買仲介、リフォームなどすべてこなします。
管理会社の担当社員、曰く、
「日中何かあれば10分で当社が駆け付けます。」
こんなこと言われたら、大手管理会社も出る幕ないですね。


更に別の管理会社では、「事務管理業務、管理員業務等自社でこなせる業務委以外は、修繕工事も含めて一切受託しない。」「業者からのリベートも一切受け取らない。」と宣言し、実践しています。
この会社、デベロッパーからの新築マンションの管理受託は利益相反を理由に一切しない方針だそうです。仕事をもらったデベロッパーのマンションの瑕疵が見つかっても、管理組合を代行して交渉する局面で、腰が引けると思われることを嫌がってのことでしょう。


当然事務管理委託料は適正価格を提示しますので、修繕工事や業者からのリベートを収入源としている会社よりは割高かもしれません。
しかし考えてみてください。20年、30年と長期的に見れば修繕積立金の方が管理費よりも多額な支出となることは常識です。この修繕積立金の支出において、管理会社の「不当なピンハネやリベートの受け取りは一切行わない」との宣言は刮目すべき志です。
 

受託規模を追求し、利益の拡大を追求し、弱者は切り捨てる。こんな大手管理会社のやり口をよそに、様々な形で頑張っている一本芯が通った管理会社が着実に地保を固めていることが資本主義のいいところですね。


「今回のコラムで取り上げた内容については株式会社エレマックス様(03-5475-3401)、株式会社クローバーコミュニティー様(03-5422-9968)にご協力いただきました。」


菅 理(すが さとし)

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ある「元」大手管理会社取締役のつぶやき

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